What’s new Lila

聖護院の八ツ橋

2009.11.18
朝から降ったり止んだりの空模様ではあったのだが、外に出る自分に晴れていたことに甘え、傘を持たずに出かけた。残念ながら、というか、矢張りというか、雨になった。
 下宿まではあと少しではあったのだが、八ツ橋屋の軒下で雨をよけることにする。
暫く眺めていると、だんだんと雨が水では無いものに見えてくるのも、不思議であった。
秋の雨は、細かい為かもしれない。

 「雨宿りですか」
がらりと扉の音をたてると、暖簾の脇に八ツ橋屋の男が現れる。
 「お借りしています」
 頭を下げると、傘を貸そうかと尋ねてくれる。
 取り立てて急ぐ用事も無い、自由気儘な学生のみであるので、雨を眺めることにして断った。
 「では、こうしましょうか」
 八ツ橋屋は1度奥に戻ると、長椅子を出してくれた。二人で並んで、軒下から雨を眺めようと、腰掛ける。
 「ああ」
 思わず、声をあげてしまった。
 「こんなもんですわ」
 八ツ橋屋も笑う。
 雨を観賞するための設えであったのだが、腰をかけた時にはもう雨は止んでしまっていたのだ。
細かい雨なので、途切れる瞬間がわからない。
 「さすが、なんやらと秋の空言う」
 「まさに」

 せっかく出してきたのであるからと、わたしと男とは並んで雨上がりを観ることとなった。
奥からさらに、八ツ橋と茶とが出された。
 雨上がりの路面もまた、ところどころに鋭い光が走って美しいものである。
 「風流なことで」
 通りかかった女性が声をかけてきたと思えば、大家であった。
 「雨に逃げられまして」
 「あら。またすぐに戻らはる思うけど」
 微笑んで手を翳すと大家は蛇の目を広げる。
はて、雨の気配は無いのにと思ったがと空を見上げると、途端に蛇の目を水が打つ音が聞こえ始めた。
 「ほらここに」
 成る程、時雨とはこのようい変わりやすいかと、また水では無いかのような雨を観る。肌寒い雨であるので、熱い茶が嬉しかった。
 「矢張り、女性の方がわからはるやな」
 八ツ橋屋が呟いた。
 「秋の空、ですからね」
 大家は涼しげな足取りで、ぱらぱらと音を鳴らす蛇の目を持って、歩いていた。




と、少々長いですが、短編小説のような文章は、先日主人と出かけた京都の八ツ橋の中に添えられていた栞の文章です。
短いやり取りの中に、情景や、石の濡れるにおい、人のちょっとしたご縁が上手く書かれていて、
読んで幸せになる文章でした。
京都の言葉も美しく素敵です。
読んでいる会話の部分も、八ツ橋屋と、大家さんの言葉は、頭の中で自然に京都弁になります(笑)

変わりやすい秋の空と女性の心をなぞられたことわざが、そういえばあったなと考えながら、
キッチンで美味しく八ツ橋を戴きました(笑)
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