棘
2011.10.21

子供のころ、習字の手習いに出掛ける時は、いつも決まって偕楽公園の緑の中を、みんなで抜けて行きました。
晴れた日には、手触りの良い木に登ったり、あひるの棲む池のお太鼓橋を渡ったり、
蛇行しながら続いてゆく長い坂道を、息を切らして走りました(笑)
公園は、大きな木々に囲まれて、昼間でも、うっそうとした森が広がり、様々な生き物の宝庫です。
走っていると、小さな小鳥が、背丈の低い生垣の中を飛び回るのを見たり、
池のほとりの葦の先には、小さなトンボがとまっていました。
「ヒカゲ蝶」と私たちが呼んだ蝶は、ちょうどクヌギの木の幹のような色合いで、
そこに驚くような大きな丸い目玉の模様がありました。
この蝶は、本当の名前をジャノメ蝶と言いますが、ネットで検索してみたら、食草がススキなどとありましたから、
きっとたくさん生息していたのでしょう。
このヒカゲ蝶が何故か、公園の中を歩いていると、私たちの顔のあたりに寄ってきます。
寄ってくる気がするのか、本当に来たのかは、さだかではありませんが、何となく蛾に似た風合いの翅をもつこの蝶が、
とにかく怖くて仕方がありませんでした。
そして、誰が言い出したのか、
仲良しのお花屋さんのジュンちゃんなのか、はたまたわたしなのでしょうか?
それとも、のんちゃん?私の妹?
その辺の記憶はもう頭の奥深く霧の中です(笑)
とにかく
「あのな~、薔薇の棘を鼻の頭につけといたら、ヒカゲ蝶寄ってこおへんで~」と、言うことになり、
みな、野ばらの棘をそれぞれ舌先で湿らせ、鼻の頭にくっつけて、胸を張って歩いていたのを覚えています(笑)
あのころは、あちらこちらに野茨も当たり前のように咲いていました。
棘が怖くて、ジャノメ蝶は私たちに近づかなかったのでしょうか。
それとも小さな子供の他愛もない話に、心合わせてくれたのでしょうか(笑)
聞いてみたくても最近は、めっきりこの地味な蝶も見かけなくなりました。
隣の空き地に、今日もススキは揺れています。